天烏由貴のマイペースな創作ブログ。
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失ったものは帰って来ない。
壊れた歯車も一度、壊れればもう戻らないように。
二人の戦いは幾日も続いた。
結果は全く見えてこないままで、水が勝っているようにも見えれば火が勝っているようにも見えた。
ふと祝融は下を見ると、急激な水の増加に河は氾濫し、木という木は水によって押し流され、辺り一体水浸しになり始め、まだ水に浸っていないところは燃え盛る炎が広がり、黒い焼け野原を跡として残していた。
小さい人間達が水に流され、火に逃げ戸惑い、木という木が水に浸り、火に焼かれ灰へと変わっていく。
「お前は、自分が治めていた国々をこのまま水浸しにしていいのか!」
祝融は必死な声で叫んだ。
「黙れ! 今まで俺に何も言わなかったあんたが今更口出しするな!」
共工は剣を構え、
「黒竜!」
と言うと、黒竜は祝融に向かって襲い掛かった。
「共工」
祝融はさっき共工の言った言葉に唖然とし、向かってくる共工を見た。
我が子が本気で自分を殺そうとしている、と今身を持って感じた。
強く太刀を握り締める。
「人の事が言えないか」
祝融はそう言うと、太刀は炎を纏い、炎の剣と変わった。
剣が大きく共工に向かって空を裂く。
すると、最初の時の炎の刃よりも大きい刃が共工に向かうが、雨の勢いで少しずつ刃が小さくなっていった。
「無駄なんだよ!」
共工は剣で刃を真っ二つに切り裂くが、その正面にはいつの間にか既に祝融がいた。
「共工、俺はお前の言う通り、今まで何も言わなかった。何一つとして。何故かわかるか?」
親子二人、紅い目と黒い目が合った。
「嫉妬だ。俺でさえ出来ない事をお前は成した。それが自分の息子だと思うと尚更」
祝融はまた太刀に炎を纏わせる。
その刃は赤く熱しており、まともにそれで斬られたらただじゃ済まない、と共工は感じた。
「それは、前からわかっていたよ」
共工は大気に満ちている水を操り、水の矢を作り、祝融に向かって射る。
だが、その矢は双竜の吐き出す炎で凪ぎ倒されていった。
「喜べ、最初で最後の俺からの施しだ」
双竜から飛び下りると、祝融は共工の前に着地するとすぐさま炎を纏った太刀を共工の左胸を貫いた。
断末魔はなく、肉が焼ける音がした。
それと同時にいつまで経っても慣れない気持ち悪い感覚が手から伝わった。
柔らかくも時々何か硬いものに邪魔されながら貫き、裂くような感覚。
「……眠れ、息子」
共工の頭を少し撫で太刀を勢いよく引き抜くと、まだ生暖かい血飛沫が祝融に盛大に飛び散る。
息子の倒れていく姿がゆっくりで長く感じた。
共工はかすかな意思で何とか祝融の肩を掴もうと手を伸ばそうとした。
その手に祝融は気付き、慌てて手を掴もうとしたが、追いつかず、力が抜けていくかのようにその場に倒れた。
ぼんやりと紅い目を開いたまま、手に握っていた剣が手から離れていく。
その瞬間、黒竜は大きく吠え出した。
物凄く暴れ、頭上にいる祝融を振り下ろそうとする。
「くっ、鎮まれ! 黒竜! 共工をも振り落とす気か!」
祝融は共工の死体を抱え、黒竜に訴える。
しかし、黒竜には祝融の言葉は全く届かず、身体を振り回して激しく暴れた。
やがて、黒竜は数々の山に向かって身体をぶつけ始める。
「双竜、こっちに来てくれ」
双竜を呼ぶと、双竜の背中に共工を乗せ、乗り、黒竜から離れると、黒竜の視界に入るように近くに寄った。
「黒竜、鎮まれ! 鎮まるんだ!」
叫んだ。
だが、黒竜は一向に鎮まる気配がない上に山に身体をぶつけ暴れまわりながら、吼え続ける。
吼える度に、雨は更に強さを増し、洪水をより激しくさせた。
「どうすればいいんだ」
祝融は黒竜を見ながら言った。
黒竜は物凄い勢いで西北へと突き進んでいく。
止まぬ雨に響くのは、苦しみを訴えるような遠吼え。
まるでそれは片割れの失った痛みを声に出しているように見えた。
山は崩れ、雷は下に向かって駆ける。
その雷は木に落ちれば火を生み、その火は数多く木を滅す。
やがて、高い山が目に入った。
山の頂はあまりにも高すぎ、雲に隠れて全く見えない。
その高さは天に届くと思えるほどのものだった。
各方角にある天の柱の一つ、西北の天を支える柱、不周山である。
まさかそんなはずが、と祝融の中で嫌な予感が駆け巡った。
しかし、向かっている方向といい、進みながら所々の山に巨体をぶつけていることからして、この黒竜は間違いなく不周山に向かっていた。
今、共工が起こした洪水に自分が起こした火事で悲惨なこととなっているのに、これにまた不周山が欠けるとなっては世界を破滅させる天変地異になりかねない、と顔を青ざめた。
だが、自分はそれを止める術を知らない。
こうやっている間にももう山は目の前だった。
――誰か止めてくれっ。
祝融の切なる願いは叶わず、黒竜は不周山に頭をぶつけた。
山に大きな亀裂が入り、もの凄い勢いで山は力に耐え切れず、崩れだした。
その時だった。
黒竜の呻き声を上げた。
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